ブロックチェーンベースのデジタルドル=米ドル建てステーブルコインは、米国にとって莫大なチャンスとなる。ただし、賢く扱うことができれば、とジョン・デバドス氏は語る。◇◇◇ドルの過去数十年の歩みは、3幕からなる演劇のようだ。**第1幕・ユーロダラー**:1950年代のロンドンで始まった、米国国外の銀行にドルを預ける仕組み。ソ連圏の国々やヨーロッパの輸出企業、そして最終的にはあらゆる多国籍企業が米国の規制を回避しながらドルを保有・運用できる手段となり、やがて規制の及ばないシャドーバンキングとして拡大し、数兆ドルに及ぶ資金が流入した。**第2幕・ペトロ(石油)ダラー**:1974年以降、OPECが原油価格をドル建てとしたことで、世界のエネルギー需要は米ドルと直結し、米財務省短期証券(T-Bill)への恒常的な需要が生まれた。**第3幕・進行中(ステーブルコイン)**:米ドルに裏付けられたステーブルドル、すなわちステーブルコインは、T-Billと米ドルに裏付けられたオンチェーン・トークンとして、流通量はすでに2300億ドル(約33兆1200億円、1ドル144円換算)を超え、多くの日においてPayPal(ペイパル)と国際送金大手Western Unionの合計よりも多くの価値を決済している。ドルは再び自らを再発明し、今や「通貨API」となっている。すなわち、パーミッションレスかつプログラマブルな通貨単位として、数秒かつ1セント未満のコストで決済可能だ。## 未来の姿動きを追えば、未来の姿が見えてくる。ナイジェリアの商店はスマートフォンでUSDCを受け取り、自国通貨ナイラの20%下落の影響を回避して、その日のうちに在庫を補充する。シンガポールのヘッジファンドは利回り4.9%ののトークン化T-Billに資金を預け、ニューヨーク時間朝8時にその資金を別の取引に振り向ける。その際、従来の国際送金のようなコルレス銀行は不要だ。コロンビアのギグワーカーは週末の報酬をステーブルコインに替え、政府の外貨規制や送金制限を回避して、近くのATMからペソを引き出す──通常の銀行送金では週末から月曜まで必要になるタイムラグも、7%の送金手数料も必要ない。ステーブルコインは銀行システムを置き換えたわけではない。銀行システムの最も遅く、最もコストのかかるボトルネックにトンネルを掘った。規模が正当性を生む。現在米上院で審議中のGENIUS法案は、ステーブルコイン発行体に対して全国的な認可を与えると同時に、FRB(連邦準備制度理事会)のマスターアカウントへの道を初めて開くものとなる。米財務省のスタッフは、2028年までにステーブルコインは2兆ドル(288兆円)に拡大するとのシナリオをすでに想定している──これは1990年代初頭のユーロダラーに匹敵する規模だ。この予測は現実的だ。USDTとUSDCは市場シェアの90%以上を占めており、その準備金の大部分は米短期国債に置かれている。つまり、外国人──特に米国の金融システムにアクセスできない個人や企業──は、USDTやUSDCを保有することで、実質的に30秒で決済可能なデジタルT-Bill」を保有していることになる(米国の信用と高度な金融インフラの恩恵を享受している)。ドルのネットワーク効果は、伝統的な送金手段であるSWIFTからスマートコントラクトをベースとした手段に移行しており、新たにドル紙幣を刷ることなく、ドル覇権を拡大している。## 根本的な疑問しかし、「ステーブルコインの時代」がリスクなき勝利というわけではない。法定通貨をトークン化する民間発行のステーブルコインは、根本的な疑問を浮かび上がらせる。スマートコントラクト上にオフショアドルの3分の1が存在する世界で、誰が金融政策を担うのか? もし発行体がウォレットをブラックリストに入れた場合、どのような救済手段があるのか? 欧州やBRICS諸国は、米国が規制する資産に依存する決済手段を容認するのか? これらはガバナンスに関わる問題だが、政策立案者がステーブルコインを投機的なものではなく、ドルの重要インフラとして扱うなら、解決可能。行うべきことは明快だ。* 発行体に対し、バーゼル規制のような資本・流動性要件を課す。* 準備金のリアルタイムの監査結果をオンチェーンで公開し、担保の透明性確保を標準とする。* ブロックチェーン間の相互運用性を義務づけ、単一のカストディアンが独占しないようにする。* FDIC(連邦預金保険公社)と同様の保険制度を適用し、銀行預金と同等の安全性をユーザーに提供する。これらを実行すれば、米国は中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、いかなるライバルCBDCよりも広く深い「デジタルドルの堀」を築くことができる。逆にそうしなければ、発行者はオフショアに流出し、米国はもはやコントロールできないシャドーシステムを監視することになる。## ドル覇権を維持するためにドル覇権は常に、その時代の主要な貿易フローに乗じて拡大してきた。ユーロダラーは戦後復興を支え、ペトロダラーは化石燃料の世紀を動かし、ステーブルコインは高速かつソフトウェア化された経済を結びつける。10年後、我々はその事実に気づくことはないだろう。ステーブルコインは、我々が泳ぎまわるための「水」となっている。世界各地のカフェは価格をペソやポンドで提示しつつ、裏側ではステーブルコインで決済するようになる。証券会社が販売する「債券」は、実際にはスマートコントラクトで制御され、自動的に担保として使えるプログラマブルな新しい金融商品へと進化する。給与はウォレットに届くと同時に、貯蓄、投資、寄付と自動で振り分けられる。唯一、未解決の問題は、米国が「偶発的に生み出したドルのアップグレード」を適切にコントロールできるかどうかだ。ステーブルコインは、すでに最も成長の早い、準主権的資産クラスだ。厳格なルールで活用すれば、ドルの「第3の再発明」は自ずと実現する。無視すれば、未来は「米国が運転席にいないまま」でやってくる。
ドル再発明の第3幕:ステーブルコイン | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)
ブロックチェーンベースのデジタルドル=米ドル建てステーブルコインは、米国にとって莫大なチャンスとなる。ただし、賢く扱うことができれば、とジョン・デバドス氏は語る。
◇◇◇
ドルの過去数十年の歩みは、3幕からなる演劇のようだ。
第1幕・ユーロダラー:1950年代のロンドンで始まった、米国国外の銀行にドルを預ける仕組み。ソ連圏の国々やヨーロッパの輸出企業、そして最終的にはあらゆる多国籍企業が米国の規制を回避しながらドルを保有・運用できる手段となり、やがて規制の及ばないシャドーバンキングとして拡大し、数兆ドルに及ぶ資金が流入した。
第2幕・ペトロ(石油)ダラー:1974年以降、OPECが原油価格をドル建てとしたことで、世界のエネルギー需要は米ドルと直結し、米財務省短期証券(T-Bill)への恒常的な需要が生まれた。
第3幕・進行中(ステーブルコイン):米ドルに裏付けられたステーブルドル、すなわちステーブルコインは、T-Billと米ドルに裏付けられたオンチェーン・トークンとして、流通量はすでに2300億ドル(約33兆1200億円、1ドル144円換算)を超え、多くの日においてPayPal(ペイパル)と国際送金大手Western Unionの合計よりも多くの価値を決済している。ドルは再び自らを再発明し、今や「通貨API」となっている。すなわち、パーミッションレスかつプログラマブルな通貨単位として、数秒かつ1セント未満のコストで決済可能だ。
未来の姿
動きを追えば、未来の姿が見えてくる。ナイジェリアの商店はスマートフォンでUSDCを受け取り、自国通貨ナイラの20%下落の影響を回避して、その日のうちに在庫を補充する。シンガポールのヘッジファンドは利回り4.9%ののトークン化T-Billに資金を預け、ニューヨーク時間朝8時にその資金を別の取引に振り向ける。その際、従来の国際送金のようなコルレス銀行は不要だ。コロンビアのギグワーカーは週末の報酬をステーブルコインに替え、政府の外貨規制や送金制限を回避して、近くのATMからペソを引き出す──通常の銀行送金では週末から月曜まで必要になるタイムラグも、7%の送金手数料も必要ない。
ステーブルコインは銀行システムを置き換えたわけではない。銀行システムの最も遅く、最もコストのかかるボトルネックにトンネルを掘った。
規模が正当性を生む。現在米上院で審議中のGENIUS法案は、ステーブルコイン発行体に対して全国的な認可を与えると同時に、FRB(連邦準備制度理事会)のマスターアカウントへの道を初めて開くものとなる。米財務省のスタッフは、2028年までにステーブルコインは2兆ドル(288兆円)に拡大するとのシナリオをすでに想定している──これは1990年代初頭のユーロダラーに匹敵する規模だ。
この予測は現実的だ。USDTとUSDCは市場シェアの90%以上を占めており、その準備金の大部分は米短期国債に置かれている。つまり、外国人──特に米国の金融システムにアクセスできない個人や企業──は、USDTやUSDCを保有することで、実質的に30秒で決済可能なデジタルT-Bill」を保有していることになる(米国の信用と高度な金融インフラの恩恵を享受している)。
ドルのネットワーク効果は、伝統的な送金手段であるSWIFTからスマートコントラクトをベースとした手段に移行しており、新たにドル紙幣を刷ることなく、ドル覇権を拡大している。
根本的な疑問
しかし、「ステーブルコインの時代」がリスクなき勝利というわけではない。法定通貨をトークン化する民間発行のステーブルコインは、根本的な疑問を浮かび上がらせる。スマートコントラクト上にオフショアドルの3分の1が存在する世界で、誰が金融政策を担うのか? もし発行体がウォレットをブラックリストに入れた場合、どのような救済手段があるのか? 欧州やBRICS諸国は、米国が規制する資産に依存する決済手段を容認するのか? これらはガバナンスに関わる問題だが、政策立案者がステーブルコインを投機的なものではなく、ドルの重要インフラとして扱うなら、解決可能。行うべきことは明快だ。
これらを実行すれば、米国は中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、いかなるライバルCBDCよりも広く深い「デジタルドルの堀」を築くことができる。逆にそうしなければ、発行者はオフショアに流出し、米国はもはやコントロールできないシャドーシステムを監視することになる。
ドル覇権を維持するために
ドル覇権は常に、その時代の主要な貿易フローに乗じて拡大してきた。ユーロダラーは戦後復興を支え、ペトロダラーは化石燃料の世紀を動かし、ステーブルコインは高速かつソフトウェア化された経済を結びつける。
10年後、我々はその事実に気づくことはないだろう。ステーブルコインは、我々が泳ぎまわるための「水」となっている。世界各地のカフェは価格をペソやポンドで提示しつつ、裏側ではステーブルコインで決済するようになる。証券会社が販売する「債券」は、実際にはスマートコントラクトで制御され、自動的に担保として使えるプログラマブルな新しい金融商品へと進化する。給与はウォレットに届くと同時に、貯蓄、投資、寄付と自動で振り分けられる。
唯一、未解決の問題は、米国が「偶発的に生み出したドルのアップグレード」を適切にコントロールできるかどうかだ。ステーブルコインは、すでに最も成長の早い、準主権的資産クラスだ。厳格なルールで活用すれば、ドルの「第3の再発明」は自ずと実現する。無視すれば、未来は「米国が運転席にいないまま」でやってくる。